20年来の腰痛…腰痛を患ってきた年数は腰痛の改善に関係があるのでしょうか?
今回ご紹介するのは60代、男性、慢性腰痛の患者さんです。
事の起こりは20年以上も前のこと、ぎっくり腰を4回ほどしたことあり、以来この20年ほどは慢性的に腰痛、両上殿部痛があるようです。腰痛が悪いときにはブロック注射を受けて改善していたそうです。お友達が当クリニックで体操の指導を受けてよくなったというので、薦められた伸展運動を朝20回やっておられたとのこと。
伸展方向に動かすと良い場合が多いのですが、必ずしもそうではないことはこれまでご紹介してきたとおりです。
もちろん、口コミしてくださる患者さんには感謝しておりますが、自分に処方されたやり方が他の方にも有効とは限らないので、そこもあわせて口コミしていただくと助かります(^-^)
さて、受診された当日は比較的調子がよかったようですが、評価は通常通り行います。
単純X線検査では下位腰椎に変性、とくにL5/S(5番目の腰椎と仙骨の間)に椎間の狭小化がみられます。
レッドフラグはありません。
まず腰の動きをみてみます。屈曲(前かがみ)は中等度に制限されていますが、さほど痛みはでないようです。他の方向も歳相応という感じです。
本日の難点は、調子が良い時にお見えになったのでベースラインが取りにくいこと。
こういう時に、逆に悪くする方向を見出すという手もあるのですが、初めて行った病院で症状が悪くなることが起こるとやはり印象が悪いですよね。なので悪くする方向を試さざるを得ないとしても私は信頼関係をある程度築いてからの方がよいと考えています。このあたりはマッケンジー法でも考え方のバリエーションという感じでご理解いただければと思います。
とりあえず毎朝やっているお友達から教えてもらったというエクササイズを実際にやっていただきます。すると、上半身のみの腕立て伏せ運動のように見えます(^_^;)
そこで、ポイントをご説明ししっかりと伸展を10回行ってみます。
伸展運動後に歩いていただくと、腰が楽になった感じがあるとおっしゃいます。
(EIL w/sag 10回)
さてどうしましょう?…悪いことはないのですが、これくらいの改善では良いともいえませんね。
このようにはっきりとしない時、私は病歴と初回の可動域検査などの結果から危険ではないと判断された動きの中から、一つの動きを選んで続けていただく宿題を出すことにしています。
今回はすでにお友達から教えてもらっていたという臥位での伸展エクササイズを修正できましたので、これを課題に選びました。
そして2日後。
少し不思議そうな表情で診察室に入って来られました。




鍬(くわ)を使っての作業などする合間に、腰をそらすことを意識していたそうです。
(EIS 仕事の合間にできるだけ)



腰仙椎間(L5/S)の隙間がほとんどないことを以前指摘されていたとのこと。
模型を使ってご説明します。

引き続きご本人に診察室でエクササイズをしていただき確認します。鍬を使って作業しても腰をそらして良くなっているので、日常生活ではこれまで同様、何も制限することはないことをご説明しました。
診察室を出られる時、見送る外来看護師さんに、やはりまだ不思議だという感じでおっしゃいました。

最近では慢性疼痛によく効くお薬が出てきました。この患者さんにもそのようなお薬は、おそらくそれなりに効果があるとは思います。
しかし、この方の場合、メカニカルな評価を行った結果、初診から数週間たった現在の症状は多少の違和感程度で日常生活は全く問題ないレベルに改善しているようです。
20年以上もあったという「慢性腰痛」ではありますが、もし先にお薬を使っていたら、この先、ずっとお薬を使い続けなくてはならなかったかもしれません。
もちろんマッケンジー法は魔法ではないので全ての腰痛が改善するわけではありません。しかし、もし腰痛がある時、まず痛み止めを飲むのか、それともマッケンジー法による診察(メカニカルな評価)を受けるのか…どちらを先にすべきか、皆さんもぜひご一緒に考えていただければと思います。